米は、アジアで最も重要な食物です。世界人口の約70%(1960年代の統計、現在でも65%ほど)の人がアジアで暮らしています。1960年代頃、アジアの飢えが深刻で、十分な食料生産技術を確立することが重要な課題でした。そして、「緑の革命」と呼ばれる農業技術改革がアジアの飢えを解消するのに大きな役割を果たしました。国際稲研究所(IRRI)と日本の農学者達が主体となって半矮性品種という、草丈が短く、その割には穂が大きく、生育期間が短いIR8という稲を開発しました。現在では当たり前の草型となりましたが、この半矮性を取り入れた多収米品種が広くアジアに広がり、人々の飢え救済に多大な貢献をしたという話です。一時期IR36という改良品種は、アジアで最も広い作付け面積まで広がりました。日本でも食糧不足の時期があり、タイ米が輸入され、細長いパサパサでまずいというレッテルが張られたことがありました。このコメはIR36系統から育成されたタイ米です。貧しい農家は、販売用に多収の米を栽培し、自家用には別のコメ品種を栽培すると聞きます。話がそれますが、タイの人々はもともとモチ米食で、タイにはおいしい糯米があります。祭事用にはおいしい糯米を食べるのがタイですから、タイ米パサパサは必ずしも正しくはありません。食の好みは国それぞれですから、日本の基準をおしつけても仕方ありません。
狭い土地が多いアジアで、なぜ米は多くの人々の食を満たすことができたのでしょう。湿潤なアジアの気候に合っている事はもちろんですが、連作が効く作物であるという事が大きな理由の一つです。小麦など米以外の畑作物は、なんらかの連作障害がでるため、輪作といって別の作物と組み合わせて3-5年に一度栽培するのが通常です。水を張る水田に育つ稲は、水田だからこそ水草以外の雑草を排除できます。土壌は還元状態になるので、酸化土壌である畑作に比べ病害虫なども圧倒的に少ない状態が保てます。自然の用水は様々なミネラル養分を供給してくれるなど、水田のもつこれら特異性が稲という適応作物と出会った結果、米という食糧を同じ土地から毎年供給できるのです。もし、連作ができない作物が選ばれたら、同じカロリーを生産するのに米の3~5倍もの面積が必要になります。もし、肉食を主にするならば、牧草生産にさらなる広い面積が必要になります。
世界では、まだまだ多くの人々が飢えに直面していると聞きます。農業の根幹は、富裕層から貧困層まで分け隔てなく十分な食料を生産供給することが理想です。小さいながらも、食料供給の一助を担えれば幸いと思っています。
大規模なプランテーションを除き、アジアの水田は例外なく小規模経営です。
エンド・ファームはアジア流の農家でありたいと考えています。
ここでは、江戸時代には特別な地税として、また数十年前までは政府の独占として扱われてきた稲作農家に焦点を当てます。
農水産省は、農業会社や営農集団、または第6次産業を含む組織を立ち上げるなどの大規模農業を推奨しています。彼らの計画によれば、農業規模が大きいほど、多くのスタッフを雇用し、十分な機械を装備することができるとの事。その結果、大きなコストダウンが見込まれ、農産物の価格が安くなり、日本の米はアメリカやオーストラリアと競争できるようになるようです。彼らのシナリオに従って、多くの農業生産法人が生まれました。政府による農業補助金は、もちろん大規模化の方向性を導いています。農業「生産」法人という言葉は普通の会社(法人)とは違うように感じます。
米の生産法人を例にしますと、多くの場合、農協(JA)が販売を代行しています。つまり農業(生産)法人は、生産に特化した会社形式という側面を持ち、普通の会社にある営業部という部署のウエイトが低い(あるいはない)のが特徴のように思われます。圃場での生産はせず、製品販売を負っている既存の全国農業協同組合(全農)-各県の全農(旧経済連)-個別の単協(JA)組織とは、区別したいという意図があるのでしょうか。ちなみに全農・農協組織にも営業部はありません。全農関連組織の前身が、政府の米専売に由来しているからだと考えられますが、古い体制のまま会社概念を備えても、普通の民間会社のような競争力は生まれないのではないでしょうか。
政府は大規模化によって、農産物の販売単価を安くできると考えているようですが、大規模に農業を営もうとしている農業法人を見ますと、規模拡大とともにさらなる大型機械と大きい人件費の導入で、経済的な余力が出ているようには見受けられません。大型機械の導入は農業作業者の負担を軽減する効果はあるかもしれませんが、生産物単価が安くなるかどうかは疑問です。今、補助金なしで黒字経営になる農業法人は、日本にどのくらいあるのでしょうか。アメリカやオーストラリアなどの大規模農業経営は、100エーカー単位です(日本とは比べようもない大きさです)。それでも大規模農業国の政府は農業に補助金を出しています。
1エーカー=約0.4ha=40a
日本農家の平均耕地保有面積は、北海道を除いて70a(2エーカー弱)、北海道を入れても1haです。例えば100エーカー規模にするには、50を超える農家の土地を収集する必要があります。日本では、耕地整理をした田でも、せいぜい一枚20-50aで、100エーカーにするには100枚近くの田を管理することになります。非常に大きな機械が20-50aの土地で作業し、次の水田に移動することを100回も繰り返す事を想像できますか?次の水田が少し遠い場合、道路を移動する時間は一つの水田での稼働時間より長くなる事が多々あります。日本の状況とは対照的に、USAなどの大型農業機械は、圃場と圃場の間を頻繁に移動することなく、大規模の圃場を連続して作業できます。
大型機械の値段ですが、例えば6条刈収穫コンバイン機械で1,500万円というコストです。高級車が何台も買えるほど農業機械は高いです。大型機械になれば、オペレーターや補助作業員費も大きくなります。収穫作業以外にも、播種から移植、収穫後の作業まで、多くの大型機械が導入されています。大型機械は、面積の小さい日本では、費用対効果からみて、その能力を十分発揮していないのではないでしょうか。
2-3軒の農家所有の農地規模で家族経営をすると、小型機械ですむ分機械代が安く、多くの家族(2-3人/家族)が従事できます。例えば、小型の3条刈コンバインは350万円位(これでも十分高すぎますが)で、1〜3ヘクタールの作業には十分です。家族単位の農業は、「3ちゃん農業」などと呼ばれますが、1家族3人の労働力があれば、50軒の農家で300人の雇用があるのと等価です。かえって社会全体での雇用は大規模経営よりも大きくなるかもしれませんし、コスト的にはかえって安くなるのではないでしょうか。
エンジンが小さいほど、二酸化炭素の排出量は少なくなりますので、小型機械での農業生産は環境にやさしいと思います。実際30馬力を超えるエンジンには排出規制対策が求められますが、それ以下ですと排出規制が免除されています。環境負荷が小さいという観点でも、見直すべき点が多々あります。
加えて売上が少ないため、お客様が10%の消費税を支払う必要がないことは注目に値します。売り上げが、年間1,000万円未満の小規模経営が多いので、消費税を払わなくて済みます。この点は、政府から歓迎されないでしょうが一考する価値があります。皆様ご検討ください