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フィドルとバンジョー
 −オールドタイミー&ブルーグラスの主役−

T.移民のアイデンティティ
U.フィドルって何?。
V.フィドラーは、悪魔
W.持ち方様々(演奏法)
X.フィドルのドロゥンとチューニング
Y.フィドル・スタイル抄
Z.バンジョー
[.バンジョー・トライアングル(演奏法とチューニング)
\.オールドタイム・ソングス
].アメリカ歴史抄/参考資料

 アメリカの音楽を語るとき、フィドル、アパラチアン・ダルシマー、バンジョーの3つ
は欠かせない楽器です。
しかし、ダルシマーは、自分で弾いたことのない楽器でよくわからないところが多いので
ここでは触れません。
※1995年刊 High Lonesome 別冊 Keep on picking!「Bluegrass Music」に発表した
 ものを修正加筆したものです。



 移民のアイデンティティ

1604年
 現在のカナダ南東部のアケーディア(Aca-dia 今の New ScotiaとBrunswick付近)に
フランス人が最初に移住し、その後、フランスの植民地になった。
 しかし、1713年、アケーディアをフランスがイギリスに売却し、その結果、フランス
人は新しく移住してきたイギリス人に迫害され、やむなくミシシッピー川を下ってフラン
ス領ルイジアナへ移住した。
1607年
 イギリスがバージニアを植民地として、タバコ農場を開く。
1619年
 ヴァージニアのタバコ農場の労働力としてアフリカン・ニグロの移入を開始。
1620年
 イギリスのプリマス港を出たメイフラワー号がケイプ・コード湾に着いた。

 初期のヨーロッパからの移民は、宗教的に迫害された人々が多かったが、1650年頃
からの移民は、ヨーロッパ全域からの「ジャガイモ移民」といわれる人々が多くなった。
 ヨーロッパの気候不順によって飢饉が発生し、その飢饉を救う栽培作物として新大陸
から渡ったジャガイモの栽培が広がった。
 しかし、そのジャガイモがまた大きな飢饉を起こすことになる。ジャガイモの連作による
ベト病の発生でジャガイモ畑が次々となくなっていた。
その最大規模なのが「アイルランドのジャガイモ飢饉」だった。
 アイルランドだけで百万人が死んだと言われ、さらに百万人が新大陸への移民を余儀
なくされた。
 これらの移民達が民族のアイデンティティの主張として、生まれた地域の音楽を持ってきた。
そのアイデンティティを支える道具の一つがフィドルだった。
 したがって、アメリカの音楽を語るとき、最初にしなければならないのは、フィドル(Fiddle)
といえる。

 1500年代中頃、ヴァイオリンは、イタリアからイギリスに渡ったという記録がのこ
っているが、それ以前の発生の記録は今のところ資料があまりないので触れられない。
 イギリスに渡ったヴァイオリンは、エリザベス女王の宮廷楽団に採り入れられたりしな
がらオーケストラ等の洗練された楽器としての地位を確保していく。
 しかし、当初ヨーロッパでヴァイオリンは、クラシックよりダンス音楽等の民族楽器
としての方が一般的だった。
 1700年代になって、イングランド、スコットランド、アイルランドのダンス音楽等
(ジグ=8分の6/リール=4分の2)の笛・バグ・パイプに替わって、リード楽器とし
てのフィドルが民衆の音楽として各地で盛んに演奏されるようになった。
 ヴァイオリンは、ケースは別で重さ約500g、長さ約60cm、弓は、74cm。
コンパクトで持ち運びが簡単で、アメリカへの移住の船旅や西部への旅の間、ワゴン
の座席下にしまい込むことができたからという理由もある。
 フィドルがアメリカでポピュラーになるのは、1920年以降、ラジオ放送が始まるまで
待たなければならない。

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 フィドルって何?(Fiddle)

 フィドルは、形状および構造、弓を使う奏法、調弦法などは、ヴァイオリンと全く同じ
ものです。
 なぜ、ヴァイオリンと呼ばないでフィドルのなのか。
語源は、オールド・イングリッシュで(Fithele)ゲルマン語で(Fiedl)ラテン語で(Vitula)
といい、いずれも弓を使う楽器(弦の数は問わない)の総称とある。
 また、フィドルの意味は、たいていの英和辞典に「通俗的、滑稽、軽蔑的な意味で、
ヴァイオリンと同じ」とある。
 また、フィドル・スティック(Fiddle Stick)は、弓のことですが、「くだらないもの」
という意味もあります。
 これは、ヴァイオリンがイタリアで今のような形状になった頃、他の弓を使った楽器に
比べて、音色がきらびやかで力強く、響きが大きかった。いわば、一時代前、ギターに
アンプが加わってエレキギターとなった時、騒音だといって受け入れてないことがあった
ように、楽器として認められていなかったようです。
 いつの時代にもそういう保守的な人たちがいるもの……。
 しかし、あまり楽しみがなく、苦しい移民生活の中で、フィドルは、バンジョーなどが
ポピュラーになる前、娯楽としての歌やダンスにとって唯一の楽器であり、多くのフィドラー
は尊敬されていた。彼らの音楽以外の娯楽は、自家製の蒸留酒だけだった。
 現在でも、アメリカでは、オールドタイミー、フォーク、ブルーグラス、カントリー系の
音楽では、特別な場合を除いてバイオリンは、フィドルという呼び方をしている。

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 フィドラーは、悪魔(Fiddler)

 元来、フィドル弾き、フィドラーは、楽譜がない、というより読めるような人がいな
かった。耳で他人の演奏する音を聴いたり、演奏の手元を見たりしながらメロディの概要
を覚えて、弾く人それぞれが装飾音などを工夫して演奏するのが一般的だった。
   そのために、敬けんなピューリタン教徒たちは、音符も見ないで、大きな音で人の心を楽
しませるフィドルは悪魔の楽器といわれ、フィドラーは、悪魔と性的に関係したと人と考え
られていた。
 楽譜を見ないで、耳で聴いたメロディを即興で演奏するためにキー(Key 曲の調子)は、
開放弦が使えて、左手の指の動きが楽なD調かA調、またはG調の曲が多い。
また、音質よりリズムやメロディに対して、指が動かしやすいことが重要視されている。
 それがクラシック系の人たちに軽蔑される要因となって辞典にあるような意味になった
と推察する。

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 持ち方様々(演奏法)

 ヴァイオリンと同じものとはいえ、奏法や支え方にはかなりの違いがある。
 ヴァイオリニストは、ヴァイオリンを左手でネックを支え、胴を左顎と肩で挟んで持つ
というのが普通です。
 他にもチェロのように両膝の間に抱え込んで弾く「ダ・ガンバ方式」、ガンバは、膝で
挟むという意味がある。南インドの民族音楽では、この方式でヴァイオリンを弾きます。
 しかし、フィドラーは、基本的なネックの支え方、胴の支え方など、様々です。
要は、自分の弾きやすい持ち方で持つというのがフィドラー。
 フィドルのボウイング(Bowing/弓の動作)には大きくわけて2つの方法があります。

@ソウ・ストローク Saw Stroke
 鋸で木を切るような弓の動きで、1音1音、弓を上下させて音を出す奏法。
1、2、3、4の音を弓のダウン・ストローク、アップ・ストロークと繰り返し上下させ
て弾くという、いたって単純な方法です。

Aシャッフル Shuffle
 これには「適当にごまかす、足を引きずって歩く」という意味がある。
基本は、1、2をダウン・ストローク。3、4をソウ・ストロークで弾くやり方で、
ナッシュビル・シャッフルとも呼ばれています。
 これがブルーグラス・フィドルの基本となっています。
 少し高度なテクニックとして、ジョージア・シャッフル、OBS(orange Blossom Spesial)
シャッフルなどがあります。
 同じ曲を2人以上で演奏した場合、弓の動きは同じにならないのが普通です。
 また、左指は、クラシック奏者のように、ヴィブラートを加えないのも特徴です。
 しかし、最近は、正式に基本からヴァイオリン奏法を習得した人が多いので、支え方や
ヴィブラートの加え方がクラシック奏者と同じフィドラーが多くなっています。

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 フィドルのドロゥンとチューニング

 ヴァイオリンは「猫のはらわたを馬の尻尾でこすり、人間の耳をくすぐる道具」ビアス
(A.Bierce 1843-1914?「悪魔の辞典/創元社版」とあるように、最初、弦は、ガット(羊
腸)ではなくて猫の腸だったのか??。
 現在では、スチール弦が一般的、いつ頃からスチール弦になったか、これも推察だが、
ビアスの時代以降、鉄の加工が容易になった時代からと思われる。
 弓は、現在でも馬の尻尾だが、2百万円の弓でも1万円の弓でも毛を交換するときには
一律1万円程度で済むというのはおもしろい。毛の問題ではなく木部の材質やメーカーの
違いらしい。
 現在、クラシック奏者も音質がより派手で音が大きく出るスチール弦を使っている人が
いるが、軟らかい音質をつくるため、ガットを芯に絹糸、金属線などで巻いた巻弦を使用
する人もいる。

 チューニング
 細い弦から、EADGが基本チューニングですが、変えることもあります。
 たとえば、アイリッシュでは、バグパイプのようなドロゥン効果を強く出すために
D調またはA調のキーで、G線をDに下げ、E線を高音のドロゥン(Drone)、
D線を低音のドロゥン(Drone)としている。
 ドロゥンには、単調な低音、ぶんぶん唸る、という意味があります。
 管楽器のリードが2枚ある楽器。つまりダブル・リードになっているバグパイプや身近
なところでは、チャルメラに代表される楽器は、メロディの音に関係なく、他にもう一つの
音が出るようになっていて、少々耳障りだが、心地よいハーモニー音に聞えるのがドロ
ゥン効果です。
ヴァイオリンは好きだけれど、フィドルが嫌いという人は、多分、この不協和
音風に聞こえるドロゥン効果が嫌いなのだと思う。
 他に、細い弦からAEAC(Black mountain Rag Tu-ning)、
 DDAD(Bonaparte Retreat Tuning)、
 AEAE(Mountain Blues Tuning or Cross tuning)などがあります。

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 フィドル・スタイル抄

 多種多様な移民が持ち込んだため、スタイルは様々ありますが、現在のブルーグラス・
スタイルに集約されていると言っても言い過ぎではない。
異論もあるかもしれないが、いくつかのスタイルについて触れてみよう。

@オールドタイミー Old time
 ブリティッシュ系移民が持ち込んだリール、ジグ、ホーダウン、ワルツ、ホーンパイプ、
ポルカなどのダンス・ミュージックが主体。
ドロゥンと装飾音が特徴で、これがアパラチアン・スタイルとして広がった。

Aアイリッシュ Irish
 アイルランドの伝統的なダンス音楽。
フルートやペニー笛、バグパイプやアイリッシュ・ドラム(Bodhran)と一緒に演奏する。
他の楽器とのユニゾン奏法が特徴。
 アイリッシュ音楽は、東北部アメリカの都市、ニューヨーク、ボストン、シカゴ等で
商業的にも成功し、1920年代にその人気が頂点に達した。

Bケイジャン Cajun
 カナダのアケーディア地方に移住したフランス移民は、伝統的なフィドルとアコーディ
オンによる音楽をもって来た。
 1713年以降、彼らの多くは、当時フランス植民地だったミシシッピ・デルタに移住
し、その移住民をアケージャン(Acadiens)と呼ばれていた。
 しかし、1803年、ナポレオンが植民地ルイジアナを手放した結果、アメリカのルイ
ジアナ州になる。
 彼らは二十世紀初めまでフランス系として孤立していたが、独特の音楽、文化を認めら
れ、ケイジャン(Cajun)と呼ばれて知られてるようになった。ケイジャン音楽もまたア
メリカのあらゆるジャンルの音楽に影響を及ぼした。

Cスカンジナビアン Scandinavian
 ノルウェー、スウェーデンの移民達が伝えたスカンジナビア半島の伝統的フィドル奏法。
G線をAに上げるのが特徴。
 スカンジナビア・フィドルは、年々、移民たちの世代交代などで支持がなくなって衰退し
している。

Dブルース Blues
ヨーロッパからの音楽は、楽器を通しての音楽であるのに対し、アフリカン音楽は、人
間の声の延長線上にあることが決定的な違いです。
 アフリカからの奴隷たちの呼びかけ、叫び(Field Holler)が音楽的に洗練されたものと
考えられる。それは南部黒人たちの本質的音楽といえる。
1920年代に発生したブラック・ジャグ・バンド(Black jug band)にフィドルを取り
入れたブルースの原形がある。
 その頃、最初のブルースの録音が行われたようだが、この録音によって北部、特にシカ
ゴの白人達がこのスタイルを真似たといわれる。このスタイルとは、E音とB音をフラット
にすとという特徴があり、ブルーグラスはいうまでもなく、ロックやジャズ・フィドルに大
きな影響を与えている。
Eウイング&ジャズ Swing & Jazz
 この世界では、何故かフィドルとは呼ばない。都市で発達した音楽のせいか、フィドル
という言葉にやはり軽蔑感を持っているのだろうか。
 バイオリンがジャズの楽器として一般に認められたのは1920年代、ステファン・グ
ラッペリ(Stephane Grappelli)やジョー・ベヌティ(Joe Venuti)らの即興演奏に人気が
出て以来である。
 この奏法も疑いもなく、ブルーグラスやウェスタン・スイングにも影響を与えてきた。

Fテキサス&ウェスタン・スウィング Texas & Westne swing
 1930年代、スウインギー(swingy)感覚と即興に創ったクリアーで緻密なサウンド
が特徴のテキサス・フィドルとルイジアナ・ジャズやビッグバンド(スウィング・ジャズ)
と西部のカウボーイ生活の中から生まれた南部の伝統的な音楽と結合して、オールド
ミタイー・ストリングス・バンドとは全く異なった新しいスタイルが生まれた。
 ボブ・ウイルス(Bob Wills)によって確立されたそのスタイルは、ウエスタン・スウィング
(Western Swing)と呼ばれている。
時として、ツイン・フィドル(Twin Fiddles)、あるいはトリプル・フィドルがリズミカルな
ビートとドライブによってバックアップされる。

Gブルーグラス Bluegrass
 フィドルは、リードはもちろん、リズムやバックアップ、同様にヴォーカル・ラインや
他の楽器のリードにオブリガートを加え、3連符やブルースのコードを多用します。
 ブルーグラスは、ハード・ドライビングとタイト・ハーモニー(Tight harmony & Vocal)
とハイロンサムなヴォーカルが特徴です。
 このスタイルは、ビル・モンローが完成するまで、オーバー・ドライブ(Folk music with
over drive)と呼ばれていた。

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