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 バンジョー(Banjo)

 バンジョーのアメリカでの存在は、記録があまりなく、かなり古いとしかいえない。
その原型が中国の月琴から、という仮説をたててかなり詳しく調べたが、国立民族学博物館
の先生に即座に否定された。
 アフリカの楽器にバンジョーの要素を持っているものが見られるが、可能性として、
アメリカに連れてこられた奴隷たちが身近にある材料で故郷の楽器として作ったものから
変化して発展したと、考えるのが自然だろう。しかし、個人的には疑問はのこる。
 最初は、3弦でフレットレスだったようだが、後に4弦になり、フレットが付けられ、
5弦になったという過程は理解できるが、いつ頃、誰がどんな理由でといった正確な記録はない。
 フレットが付けられたのは、スペイン系の多かった中央アメリカからテキサスやフロリダへ
渡った黒人たちのブルースギター奏者を見て、その影響を受け、使いやすく改良されたものと
推察できる。
 4弦バンジョーは、少なくとも1840年代のミンストレル・ショーで歌とともにエンタティ
メント楽器の役割をしていた。
 5絃になったのは、1848年、ミンストレル・ショーのショーマン、ジョー・スエーニイ
(Joe Sweeney)が短くした5番目の弦をバンジョーに加えたと主張している記録があるが、
5番目がドロウン弦であることを考えると、記録とは別に、バンジョーがアパラチア地方へ入り、
フィドルと出会って、そのバックアップ楽器として発展する過程で、フィドルのドロウン効果に
影響されて付けられたものと推察できる。
 また、写真等から推察すると1890年代以降のほとんどのバンジョーにフレットがつけられて
いるようだ。

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 バンジョー・スタイルのトライアングル

 演奏スタイルは、3つの異なった地域で進化したと思われる。
 一つは、アパラチアで発達した奏法で、そのスタイルは数十種類あるといわれ、地域、
集落単位で演奏スタイルが違っていた。
 これらは Clubbing, Rapping, Drop-thumb, Down-picking, Knockdown, などと様々な名称で
呼ばれた。
 多少の違いはあるが、いずれも右手の親指を立てて拳を握り、親指と拳で交互に弦を叩
くという感じで、どちらかといえば、とても楽器を弾くとはいえないスタイルで打楽器の
ようにリズムを刻むスタイルだったようだ。

 初期のチューニングでは、マウンテン・ブルース・チューニング(マイナー・チューニング
とも言い、音楽的にマイナーではない)、あるいはソウ・ミル(Saw mill tunning/gDGCD)
と呼ばれているものが一般的だった。
 これらを総称してフレイリング(Frailing)といい、クロー・ハマー(Claw hammer/
鳥獣の爪に似た形)と呼ぶようになったのは比較的新しく、C.アシュレイ(C.Tom Ashely)、
R.スタンレー(Ralph Stanley)等のスタイルをいいます。
 もう一つは、ケンタッキー東部から北東キャロライナの山地で生まれたスタイルで、親指と
人差指を使うダブルサミング(Double thumbing)がある。
 親指が二つの機能を持ち、ドロゥン弦とメロディを、人差指は、第一弦のみをピッキング
して、第二のドロゥン弦として使い、また、親指と人差指の二本で弦を挟んでリズムをきざむ
スタイルをいいます。
 このスタイルは、ピート・シガー(Pete Seeger)によって紹介され、ロング・ネックと
ともに、フォーク・スタイルとも呼ばれる。
 三つめは、親指と人差指、中指を加えたブルーグラス・バンジョーの基になっているスリー
・フィンガー・スタイル。
 このスタイルは、初期のミンストレル・ショーのバンジョー・オーケストラのテクニックに
似ているともいわれる。
 また、後のパーラー・ギター、つまり家庭内で演奏されていたギター奏法、有名なカーター
・ファミリーに代表されるギター・スタイルにも似ている。
 スリー・フィンガーは、ギターが先か、バンジョーが先か、あるいは別々のところで発生し
て、どこで出会ったのかは定かではなく、議論があるところだが、個人的にはバンジョーの
スリー・フィンガーが先だったという説を支持するが、ギターについては調査中。
 というのは、初期のミンストレル・ショーマン達は、南部の黒人奴隷達や北部の自由な
黒人達から歌とバンジョー・テクニックを学んだといわれている。
 したがって、スリー・フィンガー・スタイルは、黒人のテクニックだったと推察していい
のではないか。
 いづれにしても初期のバンジョーは、リード楽器としてではなく、フィドルや歌のバック
アップのためのリズム楽器としての域を出てはいなかったようだ。
 そして、1945年頃、このスリー・フィンガーをさらに洗練させてリード楽器として
確立したのがアール・スクラッグス(Earl Scraggs)である。
 このスタイルは、3本の指を効果的に使ってメロディを演奏し、装飾音やブルースのテク
ニックであるスラー、チョーキングなどを使って、リードを受け持つ楽器として、ビル・モ
ンローのブルーグラスと出会って現在に至っている

 バンジョーのチューニング
 普通は、オープンG調チューニング(gDGBD)が一般的だが、
他に、先に挙げたアパラチアのマイナー・チューニングやフォーク・スタイルで使われる
音楽的に短調のマイナー・チューニング(gDGB♭D)C調チューニング(gCGBD)
D調(aDF♯AD)等がある。
 ※小文字は5番線のチューニング

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 オールドタイム・ソングス(old-time songs)

 ブルーグラスでよく聞かれるオールドタイム・ソングを8つのカテゴリーに分けて
紹介してみよう。

@ダンス  Dance tunes.
 初期に演奏されていたダンス曲は、ヨーロッパ各地から持って来た曲がほとんである。
 それらを基にフィドラーが新しく構成し、歌詞が加えられていったが、歌詞も単純で、
 黒人のフィールド・ホラー風で、ほとんどは2ブレークしかない単調な曲。これを長く
 繰り返し演奏していた。また、多くは即興なので当時の歌詞は残っていない。
=Cumberland gap. Cotton-eyed Joe.

Aバラード Ballads.
 イングランドの移民の民謡がもとになっているものが多い。
 20行詩か、それ以上の行詩を物語風にしてつくったもの。
 バラードを歌うのは、女性達が多かった。
 アメリカの最初のオールドタイム音楽といわれる。
=Wind and Rain. The Rambling boy.

Bノックダウン Knockdown tunes.
 ラフなバンジョー奏法で比較的早いテンポのものをいう。
 これらは、クローハマー、thumb-cocking.rapping.frailing.banging.などと呼ばれる
 スタイルで演奏されていた。
 それらを総称してノックダウン曲といった。
=The Coo Coo bird. Diamond Joe.Ground hog.

C春 歌  Tickling songs.
 いわゆる猥歌である。歌詞には略語、隠語が多く、日本語訳は非常に難しい。
=Bile them cabbage down. Old maid's last hope.

Dロンサム Lonesome tunes.
 ケンタッキーの山々での生活は寂しく、それを紛らわせるための陽気な曲もあったが、
 多くはスローでメロディも悲しげで、ロンサム・サウンドと呼ばれていた。
 裏声(ヨーデル風)を使わないで高い声で歌うのが特徴で、マウンテン・ブルースと呼
 ばれるようになった。
 ビル・モンローのハイ・ロンサムと呼ばれる声質の要因はここにある。
=Shady Grove. Wild Bill Jones. Sugger babe.

Eゴスペル  Gospel songs
 オールドタイム音楽の本質的な部分でもある。
 初期の歌手達は、馬で旅をしながら教会の牧師や学校の教師達から歌を学んでいた。
 これらの多くはゴスペル・ソングとして歌い継がれている。
=Shall We gather at the river

Fミンストレル・ソング Minstrel songs
 1842年頃から顔を黒く塗った白人のショー・マン達が、バンジョー、タンバリン、
 フィドルなどショーで歌われたもので、東海岸を中心に、ミシシッピー川のショー・ボート
 がよく知られている。
 これらは、人気があって新しい歌の需要が多かったので、エメット(Den Emmett)や
 フォスター(Stephen Foster)のようなソングライターは、新しい歌を創ってきた。
 初期のオールドタイム音楽の録音には、ミンストレル・ソングが反映されている
=Oh,Them golden slippers. I'm gwine back to Dixie. Dixie.

Gパーラー・ソング  Old fashioned parlor songs
 1890年代は、センチメンタルなバラードの全盛時代であった。
 しかし、これらは居酒屋などで歌われる歌ではなく、家庭で歌われたもの。
 母親が最新の楽譜ピースを手に入れて食後などに家族がピアノの周りに集まって
 演奏し歌っていたもので、南部の農園で人気があったが、後に北部の都市にも広がった。
=Hard times come agein no more. Little rosewood casket.

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 アメリカ歴史抄

1620年 メイフラワー号がケイプ・コード湾に到着 1692年 マサーチュセッツで魔女狩り
1775年 独立戦争始まる。1783年終結
1776年 独立宣言
1831年 バージニア州で奴隷の反乱
1836年 アラモ砦の陥落
1840年 エンターテイメントとしてのミンストレル・ショーが始まる
1848年 カリフォルニアで金鉱発見
1859年 戦闘的奴隷廃止主義者、ジョン・ブラウン処刑。
1861年 南北戦争始まる。2年後に終結
1866年 日本人の移住が始まる
1869年 大陸横断鉄道完成
1885年 オートハープ 販売
1896年 映画の公開
1897年 グラモフォーン(蓄音機)がシアーズのカタログに掲載
1900年 ギターの通信販売始まる
1920年 ラジオの放送始まる/禁酒法施行
1929年 ドブロの製造
1933年 禁酒法廃止



 資料(以下を参照しました)

『Anthology of Fiddle styles』by David Rener
『Banjo Meltdown』Video by Tennessee Banjo Institute
『Old-time strings band song book』by Cohen/seeger/Wood
「Introduction to styles in old-time music」by John Cohen
「Some thoughts about old-time music」by Mike Seeger with Paul Nelson
『Old-time song book』 by Wayne Erbsen
『The American Heritage Dictionary of The English Language』
『ぼくはプレスリーが大好き』片岡義雄
『アメリカン・ポップス』チャールズ・ベックマン 浜野サトル訳
『アメリカ200年』講談社編
     以上をメインに、以下を傍証参照
『英系アメリカ民俗音楽の楽器』三井徹
『ブルーグラス音楽』三井徹

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